【アイヌ民族とこの映画について】

アイヌ民族━━
古来より東日本・北海道・サハリン・クリル諸島に暮らしていた北方民族。明治以降、北海道(当時は「蝦夷地」と呼ばれていた)に進出した和人によって伝統的生活が禁じられ、いまでは2〜5万人が北海道を中心に【日本人として】暮らしている。

南の先住民族である琉球民族に比してその存在感はマイナーで一般には誤解も多く、

ともすれば【失われた民族】などといったネガティブなイメージで捉えられがちである。


また、そうでなければ【自然と共生する民族】【すべてを神として敬う】
といったイメージが強調され、美化され偶像化されてもいる。



アイヌ民族を扱った近年のドキュメンタリー映画では『TOKYOアイヌ』(2010年)
が関東に住むアイヌの実情と先住民族としての権利獲得を目指す人々を描き、
『カムイと生きる』(2011年)があるエカシ(長老)のキャラクターを通じて
後者のアイヌ観を描いたといえるだろう。



本作品では前掲の2作とは全く別の視点で、【唄】をキーワードに
ごく普通の母親でもある2人の歌手を描く。


2人は共に現代アイヌ音楽における実力者ではあるが、肩肘張らず自然体。

その『超天然』ともいえる姿が2人の魅力でもある。

その歌声、楽器の音色には祖先から連綿と受け継いできた魂が確かに宿っている。



唄は何処から生まれるのか。
歌うこととはなにか。



そんなことを個性豊かな姉妹の生活を通じて描きたい。

それは「民族」の括りを超えた「ニンゲン」としての普遍性を描くことになるであろう。

また近年、マイノリティヘイトの一環としてアイヌ民族否定論が台頭し、
一部で激しい論争が起きたことも記憶に新しい。

本作品を「否定論」に対しての「やわらかな反論」ともしたい。



 

 

Documentary Film

Kapiw and Apappo - A Tale of Ainu Sisters

 

2016 theatrical release, 112 minutes, Directed by Takayuki Sato

 

[About the Ainu and this film]

 

The Ainu People.

Ainu indigenous people ━━ The traditional territory of the Ainu people includes north eastern Japan, Hokkaido, Sakhalin, and the Kuril Islands. Since the Meiji period, when Japanese began to colonize Hokkaido (calling it "Ezo" at the time), Ainu culture and way of life were outlawed for generations. Today, the Ainu population is estimated at 20 to 50 thousand. Most of them living in Hokkaido, many assimilated into Japanese culture.

Compared with Ryukyan indigenous peoples in the south of Japan (Okinawa), the Ainu are more often misunderstood and their issues are broadly ignored by the mainstream.

 

Images of Ainu people tend to reproduce negative or simplistic stereotypes such as:

 

【Lost ethnic group】

 

【Natives coexisting with nature】

 

【Honoring everything as a god】

 

This image is constantly reinforced, beautified and even fetishized in film.

We see this in recent documentaries dealing with contemporary Ainu people, such as “TOKYO AINU” (2010), which portrays Ainu in Tokyo as indigenous rights activists, and in the nature-loving character of Haruzo Ekashi (the elder) from “Living with Kamuy” (2011).

 

In “Kapiw and Appapo” we see two singers who are also ordinary mothers with ordinary lives, offering a completely different viewpoint from the above two works.

Both of them are skilled in contemporary Ainu music, but are not activists or professional musicians.

This ordinariness is what makes the characters appealing.

The beauty of their voices, the tone of their instruments, are imbued with soul inherited from their ancestors.

Where do these songs come from? What is singing?

I explore such questions through the lives of these two individuals.

The film seeks to depict a ‘human’ universality that goes beyond the 'ethnic group'.

In recent years, racism against Ainu and other minorities has increased in Japan.

With this work I sought to express a ‘soft objection’ against such ‘denial’.

 

 

【ドキュメンタリー?ドラマ?】

現在、ドキュメンタリーとドラマとは対立/相反する概念、あるいはジャンルとして認識されるのが一般的だろう。
ドキュメンタリーとは「現実をそのままに(演出をせず)写し取り再編集したもの」。

ドラマは「ある意図をもって演出され作り上げられたもの」。
では、【ドキュメンタリー】とは?
約100年前の映画の黎明期、「ドキュメンタリー映画の父」とされるロバート・フラハティの『モアナ』について使われた言葉だ。

以下、高知在住の映画愛好家・山本嘉博氏(『高知の自主上映から~「映画と話す」回路を求めて』著者)のHP「間借り人の映画日誌」より引用させていただく。

 『十五年前に県立美術館がエースジャパンと共に企画した“空想のシネマテーク”の第1回:「ドキュメンタリーとアバンギャルド」で、講師の西嶋憲生が教えてくれた「ドキュメンタリーという言葉は、…ジョン・グリアスンが1926年にフラハティの『モアナ』に対して使った造語だとの説明があり、当時、このジャンルは「現実のアクチュアリティをクリエイティヴにドラマ化する映画」のことを意味していた」との話を思い出し、まさに佐藤監督が「現実のアクチュアリティをクリエイティヴにドラマ化する映画」として本作を撮ろうとしていたのだと、妙に感慨深かった。』

つまり、本当のドラマは現実の中にある。
その意味でこの映画は【ドキュメンタリー】であり【ドラマ】なのである。


 

【映画ができるまで】

監督・佐藤隆之は約20年にわたり数々の劇映画に助監督として参加してきた。


30代のはじめ、ある映画の撮影で出会った阿寒湖のエカシ(アイヌの長老)の存在感に圧倒され、

いつかはアイヌの映画を自らの手で、と願っていた。


2008年頃から東京や阿寒湖のアイヌコミュニティの人々との付き合いを始め、関東の

若者グループ「アイヌレブルズ」に取材してオリジナルシナリオを執筆する。

シナリオはNHKサンダンスフィルムフェスティバルの二次選考を通過した10本に残るが、映画化されることはなかった。

2010年夏、親交のあったアイヌの木彫家・藤戸幸次氏の急逝にショックを受ける。


その後、かねてからその歌声と存在感に惹かれていた
絵美/富貴子姉妹のドキュメント撮影に取り掛かる。


撮影/編集に約5年をかけ、文化庁の助成金を得てついにこの作品を完成させた。



 

 


【ロードショーから】

2016年11月の東京渋谷ユーロスペースでのロードショー以降、全国34箇所で上映され累計鑑賞者数は3700人を越えました。(2019年2月現在)
初公開から二年を過ぎた今も、民族の枠を越えた共感・静かな感動が全国へ拡がっています。

 

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